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イベントレポート:六古窯日本遺産プロジェクト企画展2018「旅する、千年、六古窯 火と人、土と人、水と人が出会った風景」〜信楽 第1部 ガイドツアー 前編〜

2019.08.30

【企画概要】

「旅する、千年、六古窯 火と人、土と人、水と人が出会った風景」関連イベント
日時:2018年12月9日(日)
 
第1部 ガイドツアー 13:00 – 15:00
会場:滋賀県立陶芸の森 信楽産業展示館・陶芸館
観覧:本巡回企画展、陶芸の森特別展「信楽に魅せられた美の巨匠たち」
案内役:高橋孝治(六古窯日本遺産活用協議会 クリエイティブ・ディレクター)、鈎真一(滋賀県立陶芸の森 学芸員)
 
第2部 やきものや産地について語らうトーク「信楽と伊賀」 15:30 –
会場: NOTA_shop
出演者:加藤駿介(NOTA & design)、山本忠臣(ギャラリーやまほん)
進行:高橋孝治
フード:陶の辺料理魚仙 4代目主人 林田裕貴

 

2017年度よりスタートした六古窯日本遺産プロジェクトによる本巡回展は、2018年度、六古窯のひとつである信楽焼の産地、甲賀市の滋賀県立陶芸の森 信楽産業展示館を会場としました。12月9日には関連イベントとして、同敷地内にある陶芸館にて、企画開催されている「信楽に魅せられた美の巨匠たち」を含めた鑑賞ガイドツアーを実施。またその後、本展出品作家でもある信楽を拠点とするデザイナー・加藤駿介氏のNOTA_shopにて、トークイベントを開催。信楽におけるやきものとつくり手の歴史を紐解き、産地の担い手・つくり手として活動していくことについて考える1日となりました。今回は第1部の様子をレポートします。

会場となった滋賀県立陶芸の森は、陶芸のための工房=創作研修館とレジデンスプログラムを持つ世界的にもめずらしい公共施設だ。1992年の開館より、国内外のアーティストやクリエイターが創作活動を行っている。日々、やきものの可能性を拡張していく場で、六古窯日本遺産の展示が開催されることはとても意義深い。

展示会場の入口には、30名ほどの鑑賞者がガイドツアーの開始を待っていた。本展の企画を務める六古窯日本遺産プロジェクト クリエイティブ・ディレクターの高橋孝治氏が、プロジェクトと六古窯について簡単な説明をする(※本Webサイト「六古窯について」を参照)。そして「6つの産地が歩んできた道、約1,000年というとらえようのない時間を、展示を通して俯瞰できるような構成にしました。平安時代末期のやきものから、現代作家の作品に向けて、地続きに見えるような流れをつくっています」とイントロダクション。

▲2018年度の六古窯日本遺産プロジェクトによる巡回展は、12月に信楽、2019年1月に丹波で開催された

六古窯は、昭和23(1948)年頃、古陶磁研究家・小山冨士夫氏によって命名され、“平安末期から現代まで産業が続く地域”と定義づけされた。日本の中でも、中部(愛知県瀬戸市・常滑市)より以西の地域にあり、それぞれ海や川、山裾といった地の利を持っている。中世において、突然産地が生まれたわけではなく、その源泉は約15,000年前の縄文土器にまで遡って考えることもできる。朝鮮半島から稲作文化とともに弥生土器が流入し、その後に須恵器など、高温焼成の窯を築いて焼くものがもたらされた。中国から入ってきた施釉陶器(釉薬をかけたもの)の真似をしてつくられていたものが、貴族だけではなく広く一般に広がっていったのが平安時代末期だ。そのとき、今の六古窯の産地が形を成していき、壺、甕、すり鉢などの生活道具としてのやきものの量産を進めていったとされる。

展示の導入には、平安時代末期から近代までの信楽焼のやきものが並ぶ。戦国時代に茶の湯文化が成立し、水指などが重宝されるなか、焼締に代表されるやきものが、茶の湯の空間で見立てられたことも。しかし「中世を生きる人たちがこのやきものを何に使ったのか、はっきりとはわかっていません。多くは信仰のためや、穀物などの貯蔵に使われていたとされています」と高橋氏は補足する。また、信楽はお茶の産地(=朝宮茶)でもあり、京都などへ運ぶ際、信楽焼の茶壺が用いられていたという。

▲写真左手前から奥に向けて、中世〜近代の信楽焼のやきものが展示されていた。ツアー案内人・高橋氏によるガイドをじっくりと聴く来場者

江戸時代から近代にかけて、さまざまな注文に応えるバラエティ豊かなやきものが生まれている。信楽のやきものでひときわ目を引く汽車土瓶もそのひとつだ。「明治時代に入り、国をあげて輸出産業(ピーク時はその4割が繊維産業)に力を入れるなか、その現場ではやきものが使われていました。蚕のまゆを煮るための鍋、さきほどの茶壺もそうです。あるいは湯たんぽや、ノベルティと呼ばれる細工品に至るまで、信楽に限らず六古窯には、ニーズに合わせて資源を用い、工夫して応える姿勢がある」と高橋氏。

▲手前には、江戸時代につくられた丹波焼の徳利。それぞれの形状や加飾に即して、ろうそく徳利・浮き徳利・傘徳利・海老徳利・ひょうたん徳利と呼ばれている

やきものの産地には、各県が運営する窯業試験場があり、そこで素材・技術開発などを行っている。信楽には、昭和2(1927)年に設立された滋賀県窯業試験場があり、現在は滋賀県工業技術センターと統合され、滋賀県工業技術総合センターとして機能。窯業試験場時代は、土管やレンガ、タイルなどの建築陶器や輸出用の商品、戦争時には軍用陶器なども開発されたという。また戦後は、国内からクリエイターやアーティストを呼び込み、産地の資源を生かしたやきものの可能性を広げるような創作活動も行われていた。

展示を奥へと進むと、現代の六古窯のつくり手6人による作品が並んでいる。信楽の出展作家、NOTA & designの加藤氏は、窯業試験場で当時創作されていたプロダクトや開発された技術をソースに、いまの時代に合うやきものをつくっている。「現代において、土をいろんな場所から持って来ることができ、さまざまな材料を駆使できる。もしかすると、その土地でないとできないことはないのかもしれない。しかしここに出展している各産地の作家は、自身で先人たちの歩みを紐解き、地域性を受け入れ、現代のものづくりをしている。ひとつのプロダクトとして、デザインの文脈から語ることもできるだろう」と高橋氏。約1,000年続く産地にあって、日々の営みの中で育まれてきたやきものの文化、そして思想。中世から現代までをつなぐ、とらえどころも難しい複雑な道のりのひとつを、本展は指し示していた。

▲NOTA & design 加藤氏の展示には、昭和時代に信楽でつくられたプロダクトも並ぶ

▲瀬戸本業窯によるやきもの。約250年、手仕事による実用陶器を手がけている

▲備前・一陽窯の木村肇氏による展示。すり鉢やワインのための器など、土の特性を生かした焼締のやきものが並ぶ

※第1部 後編「信楽に魅せられた美の巨匠たち」展 鑑賞ガイドツアーレポートへとつづく