2024年11月11日、六古窯共創ネットワーク構築事業の一環として、六古窯の各産地の作り手と、六古窯との連携に関心のある企業の皆さんが瀬戸市に集まり、「文化観光」をテーマに六古窯を巡る旅の可能性について考えるイベントが開催されました。参加者は、具体的な実施アイデアを検討するためにまず産地ツアーを体験し、その後、セミナーでインバウンド観光の事例や課題について学びました。今回は、その様子をレポートします。
【イベント概要】
産地ツアー&セミナー in 瀬戸
「手仕事の文化が結ぶ、地域と未来 〜健やかな文化経済圏のあり方を探る〜」
日時:2024年11月11日
第一部 産地ツアー 『彩陶の聖地「瀬戸」巡礼 〜千年の美と創造の源を巡る旅〜』
10:00 瀬戸蔵ミュージアム見学
11:20 昼食@もやいや
13:00 瀬戸・ものづくりと暮らしのミュージアム 瀬戸民芸館
14:50 加仙鉱山(採掘場見学)
15:55 染付窯屋 眞窯
第二部 セミナー「文化観光の事例を知る 〜六古窯でチャレンジするならどんな体験があるかを考える〜 」
講師:合同会社観光ラボ 代表 古屋絢子氏 / ミテモ株式会社 代表 澤田哲也
進行:高木孝太郎
【イベントの様子】
産地ツアーでは、まず瀬戸蔵ミュージアムで瀬戸焼の歴史や特徴を学んだ後、瀬戸民藝館へ向かいました。瀬戸民藝館では、作り手でもある瀬戸本業窯八代後継・水野雄介氏の案内のもと、陶土や釉薬の成り立ち、瀬戸の発展の背景、民藝との関わりについて学びました。その後、瀬戸焼の特徴である陶土の採掘場を訪れ、最後に瀬戸染付焼の窯元を見学。職人たちの成型技術や染付技法を間近で見ながら、ツアーを締めくくりました。
<瀬戸蔵ミュージアム>
学芸員による瀬戸蔵ミュージアムの案内の様子
瀬戸蔵ミュージアムでは、陶器と磁器の違いや、粘土や釉薬といった素材、そしてやきものが完成するまでのプロセスについての基礎知識を学びました。さらに、学芸員の案内で瀬戸焼の起源や歴史的な変遷についても学びました。瀬戸焼の変遷を紹介する展示コーナーでは、器だけでなく、便器やタイル、碍子、人形などさまざまなやきものが展示されており、参加者はその多彩なラインナップに圧倒されていました。瀬戸の豊かで良質な土壌のおかげで、ここで多種多様なやきものが発展してきたことを改めて実感することができました。
瀬戸蔵ミュージアムの後は、地元の食材を使った料理を瀬戸焼の器で楽しめる「もやいや」で昼食を取り、窯垣の小径を歩いて瀬戸民芸館に向かいました。
窯垣の小径
<瀬戸・ものづくりと暮らしのミュージアム 瀬戸民芸館>
瀬戸本業窯八代後継である水野雄介氏による案内の様子
瀬戸民藝館では、瀬戸の歴史や文化についてさらに深く掘り下げるレクチャーを、作り手でもある水野氏から受けました。良質な陶土の成立ち、渡来人から瀬戸に技術が伝わってきた歴史、登り窯や釉薬、分業といった瀬戸焼の特徴、民藝と瀬戸との関わりなど、幅広いテーマに対して、丁寧に説明していただきました。
中でも、良質な陶土の成立ちについての話は非常に印象的でした。瀬戸の良質な陶土は、永い年月をかけて風化した花崗岩が、約500万年前に存在した東海湖に堆積し、水と合わさって粘土化したものだそうです。その後、地殻変動によって東海湖が消失する際に、粘土が谷間に堆積し、地理的に高い場所にあった粘土からは、水が流出する際に鉄分が流れ出し、陶土が形成されたそうです。その場所こそが瀬戸であり、何百万年前に地球の自然の力によって生まれた資源を、私たちは今も使い続けているのだと、改めてその貴重さを痛感しました。また、この貴重な資源の採掘が近年難しくなっていることなど、産地が抱える課題についても触れていただきました。瀬戸民藝館でのツアーは、歴史や文化を紐解きながら、未来について考えさせられる貴重な体験となりました。
<加仙鉱山(採掘場見学)>
加仙鉱山見学の様子(左下:原土、右下:精製された蛙目粘土)
瀬戸民藝館の後は、貴重な蛙目粘土を原土から粘土に精製している加仙鉱山を訪れ、加藤氏に工程を案内していただきました。まず、粘土の精製方法について、バケツを使ってわかりやすく説明を受けた後、実際の設備や鉱山を見学しました。精製過程で副産物として出る珪砂や微砂(通称:キラ)は、ガラスや釉薬、またタイルの原料としてそれぞれ利用されているとのことです。
また、瀬戸本業窯八代後継・水野氏からも話があったように、蛙目粘土の採掘は現在の使用量のままだと、あと20〜30年で採掘可能な範囲を掘り尽くしてしまうということです。蛙目粘土は陶器だけでなく、スマートフォンなどの電子部品にも使用されており、その枯渇問題は私たち全員の生活に直結していることを改めて学びました。
<染付窯屋 眞窯>
染付窯屋 眞窯見学の様子
ツアーの最後には、染付窯屋 眞窯の工房を訪れ、鋳込みや染付といった手仕事を見学しました。冒頭で四代目加藤真雪氏から、ガバ鋳込みや染付の技法についてのレクチャーを受けた後、実際にそれぞれの工程を間近で見ることができました。
ガバ鋳込みの工程では、鋳込み時間によって器の厚みを調整する方法が紹介されました。加藤氏によると、鋳型や粘土の状態、また気温や湿度によって最適な鋳込み時間が変わるため、職人は常に状況を確認しながら微妙に時間を調整する必要があるとのこと。そのため、職人の豊富な経験に基づく鋳込み時間の見極めが非常に重要だと強調されていました。
染付の工程では、濃み(だみ)と呼ばれる絵付けの技法を用いて呉須(染付に用いられる顔料)で素地に絵を施す様子を見学しました。職人は、素地に描かれた紋様の輪郭内に専用の筆からスポイトのように呉須を流し出し、呉須の量で濃淡を表現していきます。その繊細な技術に、参加者一同は息を呑み、熟練の技を肌で感じることができました。
第二部 セミナー「文化観光の事例を知る 〜六古窯でチャレンジするならどんな体験があるかを考える〜 」
セミナーでは、まずミテモ株式会社の澤田哲也氏より、文化観光の歴史や現状、そしてその課題についての講演が行われました。その後、合同会社観光ラボの古屋絢子氏が登壇し、これまでに5,000人以上の外国人観光客をガイドしてきた経験を基に、具体的な事例を紹介していただきました。古屋氏からは、文化観光を今後進めていく上で役立つ貴重なアドバイスが数多く提案され、参加者にとって大変有益なヒントとなりました。
セミナーの様子
澤田氏の講演では、観光客の嗜好の変化について触れ、従来の「文化名所を訪れたい」というニーズから、「その土地の日常的な文化を知りたい」というニーズへとシフトしてきており、より個人的で深い体験を求める観光客が増えているというトレンドが紹介されました。観光客が興味を持つ分野は多岐にわたるため、観光客の興味との接点をどのように作るかが重要で、また、そこから六古窯などの伝統工芸にどのように繋げていくかが、観光客を引き寄せる鍵となり、そこを皆で考えていく必要があると講演いただきました。
古屋氏の講演では、外国人観光客を5000人以上ガイドしてきた経験を基に、多様化する顧客のニーズについて具体的に紹介されました。富裕層と言っても、旅行の目的は一様ではなく、それぞれ異なるため、型にはまったアプローチはできないと古屋氏は指摘します。そのため、ツアーを企画する際には、旅の目的やお客様の興味をどれだけ理解しているかが重要な鍵となります。さらに、ツアーガイドとしても、お客様の文化的背景や習慣、環境の違いを理解しておくことが非常に大切で、お客様との接点を見出しながらガイドすることで、満足度を高め、余計なトラブルを避けることができると紹介いただきました。今回の講演では、事前にお客様を理解するための参考として、アメリカのお客様の出身地(アメリカ出身/在住)や居住地(都市部/地方)別の傾向と対策が紹介されました。
さらに、ツアーを企画する際に、最低限やっておくべきこととして、以下の点が挙げられました。
- 観光資源/コンテンツの調査
実際に現地を訪れ、コンテンツを幅広く把握しておくこと。 - ターゲット層との相性
お客様の興味とコンテンツの関連性や、交通手段(電車移動を避ける方など)を考慮すること。 - バックアッププラン
天候や臨時休業など、計画通りに進まない場合を想定し、柔軟な計画を立てておくこと。
- 観光資源/コンテンツの調査
セミナーを通じて、「お客様を如何に理解するか」がツアー成功において最も重要と強調されました。
セミナー後半では、質疑応答の時間が設けられ、参加者から様々な質問が寄せられました。「年代が異なる親子へのガイド方法」や「興味が異なる3組が参加したツアーをどのように仕切るか」といった具体的な状況に基づいた質問が印象的でした。セミナー終了後は、交流会が設けられ、参加者同士で積極的な意見交換が行われました。
イベント終了後にいただいた参加者の声をご紹介します。
「実際に瀬戸焼の陶芸体験ツアーを企画しており、お客様理解の重要性について非常に学びがありました。」
「お客様のルーツや共通点を見つけ出すことが、ツアーの満足度に大きく影響するという点がとても魅力的だと感じました。今後はターゲット層やテーマをさらに深掘りし、ツアーの質を向上させるために、勉強会や意見交換会に積極的に取り組んでいきたいと思いました。」
「海外からのニーズについてもっと知る機会を設けていきたいと思います。」
参加者の皆様からは、非常に前向きで意欲的な意見をいただきました。
今回の産地ツアーとセミナーを通じて、具体的なツアー実施のアイデアを深める貴重な機会となりました。また、参加者同士の繋がりも生まれ、非常に有意義なイベントとなりました。次回は12月17日に信楽ツアーを予定していますので、ぜひご参加をご検討ください。